学部・大学院


こども保健学科 教員コラム

「入学に寄せて」

大塚 優子 (家族関係、女性問題)


  平成27年4月2日、本学では入学式が執り行われました。満開の桜の下で真新しいスーツに身を包んだ新入生が緊張した面持ちで佇んでいる姿がとても印象的でした。

 入学式の2週間前には卒業式が行われたばかりです。卒業式では着物や袴、スーツを着こなした卒業生の笑顔が輝いていました。その顔は希望に満ち溢れ、入学時と比べると一段と成長した姿が頼もしく見えました。
 短い期間にこのような対照的な若者の様子を目にするのは、この時期ならではといえるでしょう。私はこれら二つの行事によって、育てた学生を次のステージへおくりだす喜びと安堵を味わい、また、これから育てる学生を受け入れ、教育をする覚悟と責任をかみしめるのです。入学式や卒業式は例年繰り返されるわけですが、私にとって新たな気持を呼び起こす大事な区切りとなっています。
 一方、入学式や卒業式の主役となる学生本人にとっても、この行事は文字通り大切な節目、区切りの役割を果たします。とりわけ大学入学を機に親元を離れ一人暮らしを始める人にとって、大学入学はこれまでの違う大きな生活変化となり、大学卒業をもって社会人となる人にとっては新たな人生の始まりとなります。大学における入学と卒業は、その本人にとって特別な人生のイベントなのです。
 振り返ってみますと人の一生にはこういった節目、区切りが沢山あることがわかります。その際その節目に応じた儀礼を伴うことが多く、私たちはこれを通過儀礼と呼んでいます。個人の成長過程に行われる通過儀礼として、誕生、命名、成人、結婚、死などの際に行われる儀礼は現在でも数多く存在しており、例えば七夜、お宮参り、七五三、長寿の祝などは一般的です。これらの通過儀礼は、こどもの無事成長や長生きへの人々の願いと想いが込められており、今でも廃れることなく続いているものです。しかしこれらには、こどもの成長や長生きへの願いのみならず、個人が次の段階へ移行し新しい役割を獲得することを促す意味もあるのです。近代以前の日本においては、むしろこの点に通過儀礼の目的が置かれ、儀礼には「厳粛な雰囲気、達成すべき試練、課題」などが伴っていたことが普通であったといいます。こういったことから通過儀礼は単なる慶事ではなく、まさに成長のための新たな努力が求められる節目といえるでしょう。
 さきの入学式や卒業式などもこの通過儀礼の一つと考えられています。つまり、これらには学生のこれまでの成長を慶び、これからの成長を願う想いが込められていると同時に、新しい役割を獲得するために様々な困難を乗り越えることを期待する激励が込められているのです。学生の皆さんにはこのことをよく認識し、新しい世界で多くのことを学び経験し、大きく羽ばたいてほしいと思っています。
 さて、入学式や卒業式といった儀式は、教育機関において行事といわれていますが、こういった儀式的行事の他にも様々な種類の行事があります。本学科は将来保育や幼児教育に関わる仕事に就く人材を育てていますので、保育所、幼稚園、こども園で行われる行事について考えてみますと、次のようなものが思いつきます。
・ 運動会、音楽会、生活発表会といった子どもたちの日頃の活動を発表するもの
・ 雛祭り、七夕、節分など伝統的なもの
・ 誕生会、遠足、お泊まり保育など日頃と違う活動
・ 施設訪問、小学校との交流など地域と関わるもの
・ 交通安全教室、コンサートなど園外の人々によるもの
・ 親子遠足、保育参観、バザーなどの保護者も参加するもの
・ クリスマス、花祭りなど宗教色のあるもの
 こうして考えてみますと、随分多くの行事があり、これらの行事にかけられる時間も相当時間にのぼるのではないかと考えられます。ここで私たちが考えなければならないことは、行事が子どもたちにとってどのような意義を持つのかということです。
 私たちは自身の経験から、行事はワクワクする楽しいもので、子どもにとって必要な活動であると考える人が多いのではないでしょうか。確かに、行事は子どもたちの生活に潤いと変化を与えるものです。
 しかしながら、それが子どもたちに負担を強いるようなものであってはいけません。また子どもたちが楽しく主体的にかかわれないような内容であってはいけません。行事のための保育や教育となってはいけないのです。
 未来の保育者となる皆さんは、行事を行う立場となります。その時には日々の生活の中で大切にすべきことを見失わず、適切に行事を取り入れる保育や教育を行ってほしいと思っています。
 私たちの人生にはその時々に応じて多くの儀式、行事がありますが、様々な儀式や行事を経験することは自身の成長を促してくれることでしょう。新しい段階に入った皆さんが、新たな自己を発見していくことを願ってやみません。



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