姫路獨協大学 薬学部 医療薬学科
生物物理化学研究室
Division of Biophysical Chemistry

Contents

トピックス

岡村恵美子教授が「公益社団法人 日本油化学会 女性科学者奨励賞」を受賞しました(2022年4月25日)

 岡村 恵美子 教授が、「公益社団法人 日本油化学会 女性科学者奨励賞」を受賞しました。日本油化学会主催の年会・国際会議での講演や座長に加えて、関西支部幹事、学会英文誌の査読委員などを務め学会の運営に貢献したこと、長年にわたり、医療・ヘルスケア・食品・化粧品・トイレタリーなど様々な企業における新入社員対象のセミナーで講師を務め、学会の活性化、油化学関連分野の発展に大きく貢献したことがその理由です。

 表彰式は2022年4月20日に東京の油脂工業会館で対面+オンラインのハイブリッド形式で行われ、岡村教授はオンラインで参加しました。

岡村教授が「第36回溶液化学国際会議(中国・西寧市)」で招待講演、安岐助手が同会議でポスター賞(Excellent)を受賞!(2019年8月23日)

 岡村教授が8月4~8日に中国・西寧市で開催された「第36回溶液化学国際会議(The 36th International Conference on Solution Chemistry)」で招待講演を行いました。同会議は、溶液に関するトピックスを主題として世界中の研究者が2年ごとに集うもので、今年100周年を迎えたIUPAC(International Union of Pure and Applied Chemistry)から毎回後援を受けて開催される歴史と伝統のある国際会議です。36回目を迎える今年は、初めて中国での開催となりました。

 岡村教授の講演は溶液のなかのタンパク質・ペプチドの自発的な反応・凝集過程をNMRでリアルタイムで追跡する内容で、’Real-Time in-Situ NMR of Biologically Relevant Reactions in Peptide Solution: Spontaneous Peptide Bond Cleavage of Aspartyl Isomers and Preaggregation of Amyloid-β Fragments’ と題して行われました。研究は、目の水晶体のαクリスタリンやアミロイドβを対象としたもので、加齢にともなって白内障やアルツハイマー病が発症する原因について、物理化学の立場から解明しようとする重要な意義をもっています。

参考URL: http://icsc2019.csp.escience.cn/
参考論文:Aki, K. and Okamura, E. D-β-aspartyl residue exhibiting uncommon high resistance to spontaneous peptide bond cleavage. Sci. Rep. 6, 21594; doi: 10.1038/srep21594 (2016)


 また、同会議で安岐助手がポスター賞(Top 5, Excellent)を受賞しました。演題は、’The Kinetics of Amino Acid Isomerization in Amyloid Beta Fragments Quantified by Real-Time 1H-NMR’ で、アミロイドベータ中で加齢にともなって起こるアミノ酸異性体の異常な蓄積に注目して、このような現象を引き起こすアミノ酸の(自発的な)異性化の進行をNMRでリアルタイム観測し、速度論に基づいてその過程を明らかにしたものです。同会議で発表された全てのポスターを対象とした審査の結果、特に優秀な5件(Excellent)に選ばれました。

参考URL: http://icsc2019.csp.escience.cn/dct/page/70007

細胞への薬物輸送のNMRリアルタイム計測に成功! タンパク質が関与しないペプチドの膜透過経路を明らかに(2017年4月15日)

膜タンパク質が関与しないアルギニンペプチドの物理的膜透過経路

 岡村教授らは、生きた細胞への薬物輸送をNMRでリアルタイム計測し、膜輸送タンパク質が関与しない"物理的な"膜透過機構について解析しました。タンパク質や遺伝子などを細胞内へ効率的に導入する働きのあるアルギニンペプチドのヒト白血病細胞株HL60への輸送過程について、NMRシグナルの時間変化から、右図のように、正電荷を有するアルギニンペプチドが(i)負に帯電した細胞表面糖鎖にトラップされ、(ii)熱揺らぎにより疎水性の細胞膜を透過し、(iii)細胞質内に輸送されるという新しいタイプの輸送プロセスをin situで明らかにしました。

参考論文:"Glycosaminoglycan Binding and Non-endocytic Membrane Translocation of Cell-permeable Octaarginine Monitored by Real Time In-cell NMR Spectroscopy" Y. Takechi-Haraya, K. Aki, Y. Tohyama, Y. Harano, T. Kawakami, H. Saito, E. Okamura, Pharmaceuticals, 10, 42 (2017). 

薬学部 岡村教授らの論文が、日本膜学会 論文賞を受賞!(2016年5月11日)

 薬学部・生物物理化学研究室の岡村教授らが発表した論文:
"Regulation of Phospholipid Protrusion in the Cell Sized Vesicle by Hydrophobic Bisphenol A"
Y. Takechi, Y. Shintani, D. Kimoto, E. Okamura, Membrane, 40, 38-45 (2015).
が、日本膜学会の「膜誌論文賞」を受賞しました。

日本膜学会 論文賞 賞状

 この賞は、日本膜学会の学術誌「膜(Membrane)」に掲載された原著論文のうち、特に優れた論文に贈られます。授賞式は、2016年5月10~11日に開催された日本膜学会第38年会(早稲田大学)において行われました。

 論文は、直径10~20 μmという細胞サイズベシクル Cell Sized Vesicle の構造・物性が薬物によって 変化する様子を核磁気共鳴 (NMR)を用いて調べ、結果をまとめたものです。 研究室の学生2名がベシクルの調製を分担してくれました。

 細胞サイズベシクルは、生体膜に非常に近いモデルとして注目されています。 また、NMR法は、分子の構造や動きを正確に捉えます。 ところが、巨大な細胞サイズベシクル内の分子の動きを自然のままNMRで観測することは、容易なことではありません。

 今回、岡村教授らの論文では、これまでに例のない巨大な細胞サイズベシクルにNMR法を活用した点が、高く評価されました。 生体膜の揺らぎと薬物の輸送の相関など、生体機能を理解する上で重要な結果であると考えられます。

安岐助手・岡村教授、ペプチド結合の切断をリアルタイムで観測し、異常型D-アミノ酸が蓄積する仕組みを明らかに:Scientific Reportsに論文が掲載されました (2016年2月17日)

 薬学部・生物物理化学研究室の安岐助手・岡村教授は、目の水晶体に存在するタンパク質・クリスタリンの模擬ペプチドを用いて、ペプチド結合の切断の様子をリアルタイムで観測し、クリスタリン中で異常型D-アミノ酸が蓄積する仕組みを明らかにしました。研究成果は、英国nature com.が発行するScientific Reports誌(電子版、2016年2月15日付け)に掲載されました。

 これまで、タンパク質はL-アミノ酸で構成され、D-アミノ酸は存在しないと考えられていました。ところが、近年、高齢のヒトの水晶体タンパク質・クリスタリンの特定部位に、異性体であるD-アスパラギン酸、特に、D-β-アスパラギン酸が多く蓄積していることが分かってきました。このような、異常型のD-β-アスパラギン酸の蓄積は、タンパク質の構造や機能を変化させ、白内障など加齢による疾患の原因につながるのではないかと指摘されています。

 ペプチド・タンパク質中の天然型L-α-アスパラギン酸(L-α-Asp)では、速さの違いはありますが、加水分解を受けて、ペプチド鎖が自然に切断されます。たとえば、図のような配列 (I)では、Aspと隣のセリン(Ser)の間のペプチド結合が選択的に切断され(破線)、L-AspとSerを末端とする2種類の配列 (II)、(III)に変化します。

 安岐助手・岡村教授は、核磁気共鳴(NMR)を利用して、切断前のL-α-Asp-Serと切断によって生じた末端のL-AspとSerをすべて区別し、ペプチド結合が切断される様子をリアルタイムで観測することに成功しました。D-β-アスパラギン酸(D-β-Asp)を含む配列についても同様の観測を行った結果、D-β-Aspを含む配列ではペプチド鎖の分解切断が起こりにくいことが量的に明らかとなりました。このことが、クリスタリン中で異常型D-β-Aspの蓄積を促進しているものと考えられます。

参考論文:Aki, K. and Okamura, E. D-β-aspartyl residue exhibiting uncommon high resistance to spontaneous peptide bond cleavage. Sci. Rep. 6, 21594; doi: 10.1038/srep21594 (2016).

岡村恵美子教授の研究が「ひょうご科学技術協会 学術研究助成」に採択・贈呈式に出席しました (2013年5月27日)

ひょうご科学技術協会 学術研究助成 贈呈書

 本学薬学部・岡村恵美子教授の研究が、公益財団法人ひょうご科学技術協会「平成25年度学術研究助成」に採択されました。 この助成は、ひょうご科学技術協会が基礎研究・応用研究など学術研究をバックアップする目的で実施されています。

 贈呈式は5月27日に神戸ポートピアホテルで行われました。熊谷信昭・理事長から贈呈書の授与、井戸敏三・兵庫県知事、野間洋志・兵庫県議会副議長その他ご来賓の方々から祝辞を頂戴しました。

 今回の助成の対象となった岡村教授の研究テーマは、"In-Cell NMRによる薬物の細胞内輸送の定量計測と予測モデルの構築"です。核磁気共鳴法(NMR)を用いて、生きた細胞へのくすりの輸送過程をリアルタイムで観測し定量する方法を確立した後、小分子から巨大なタンパク質までの輸送のようすを"そのまま"捉えて、くすりの作用や毒性の予測、創薬研究に応用することを目標としています。

 核磁気共鳴は、最近病院などで広く用いられる"MRI"と同じ原理で、くすりがどのようにして細胞の中に移行し、細胞の中でどのように働くかを、原子・分子の姿から捉えることができます。生きた細胞へのくすりの輸送機構を明らかにする新しいアプローチとして注目されます。

 くすりがもっとよく効くためにはどうすればよいか、副作用を減らすにはどうすればよいか、新しいくすりを作るにはどうすればよいかを考えるために重要な基礎研究として、今後の展開が期待されています。研究には、本学薬学部の通山由美教授、原矢佑樹助教、安岐健三助手が、共同研究者として参加します。

「第11回 日本油化学会オレオサイエンス賞」
表彰式が行われました!(2012年10月3日)

 岡村 恵美子教授らが発表した総説論文が第11回日本油化学会オレオサイエンス賞を受賞しました。受賞の対象となった論文は、
 吉井範行・岡村恵美子, 「NMRによる脂質膜中の薬物の「運動」の解析」, オレオサイエンス, Vol.11, No.6, pp.213~220 (2011)

 この総説は、日本油化学会オレオサイエンス誌が、昨年、「界面膜を分子レベルで分析する分光学的手法」を特集するにあたり、NMR研究について執筆の依頼を受けて寄稿されたものです。岡村教授らの研究成果を中心に、細胞膜モデルとしての"脂質二分子膜"の動きにもとづくドラッグデリバリーや「くすり」の運動の様子を直接観察するNMR測定法についてまとめました。

 授賞式は、平成24年9月30日(日)から10月4日(木)まで長崎県・アルカス佐世保で開催されたWorld Congress on Oleo Science (WCOS2012)・日本油化学会創立60周年記念大会の会期中に行われました。会議において、"Static and Dynamic Behaviors of Drug Delivery to Lipid Bilayer Membrane by NMR and Molecular Dynamics Simulation"と題して、岡村教授が講演を行いました。

オレオサイエンス賞賞状

岡村 恵美子教授らの論文が、
「第11回 日本油化学会オレオサイエンス賞」受賞!!(2012年9月25日)

 岡村 恵美子教授らが、日本油化学会オレオサイエンス誌に投稿した総説論文"NMRによる脂質膜中の薬物の「運動」の解析"(Vol.11(6),pp.213-220(2011))が、「第11回日本油化学会オレオサイエンス賞」を受賞しました。
 表彰式は、10月に開催される国際油化学会議・日本油化学会合同年会の会期中に行われます。

岡村教授ら 「高速でモデル細胞膜に結合・解離を繰り返す疎水性薬物の運動状態をNMRでin situ計測!
The Journal of Physical Chemistryに論文発表(2011年9月29日)

 岡村教授らは、核磁気共鳴(NMR)法を用いて、内分泌かく乱化学物質(環境ホルモン)ビスフェノールAのフッ素置換体(FBPA、図1)がモデル細胞膜に結合する様子を観測することに成功しました。高速で膜に結合・解離を繰り返す疎水性薬物の運動状態が、in situ (そのままの状態)で捉えられるようになりました。成果は、The Journal of Physical Chemistry Bに掲載されました。(2011年9月29日)

FBPA の構造
図1.FBPA の構造

 FBPAは、30 ℃における水への溶解度が60μM程度であり、水に極端に溶けにくい化合物です。したがって、疎水性の細胞膜に容易に移行すると考えられます。事実、モデル細胞として用いた高濃度のベシクル溶液中では、FBPA分子のほぼすべてがベシクルに結合することがわかりました。得られた結合量から自由エネルギー差ΔGを求めると約20 kJ/molであり、膜との親和性が高いことが明らかとなりました(図2左)。先に求めた、5-フルオロウラシルとは対照的な結果となりました。

 ΔGの温度変化から、膜への結合に伴うエントロピー変化ΔSとエンタルピー変化ΔHを求めました。その結果、FBPAの膜への結合は吸熱反応であり、結合がエントロピー駆動型であることを明らかにしました。

 さらに、FBPAの膜への結合と解離の速度定数kFB, kBFを算出したところ、温度30 ℃で数十~数百s-1となりました。これは、FBPAの半数が、ミリ秒のオーダーで水中から膜中に移行し、膜から水中に解離していることを示しています。5-フルオロウラシルと比較すると、非常に高速であることがわかります。

 また、FBPAがどの程度効率的に膜のなかに取り込まれるか(図2右)を定量化したところ、膜表面にアクセスした分子が約20回に1回の割合で膜に移行することが明らかになりました。一方、5-フルオロウラシルの膜への結合の効率はFBPAの1/100,000程度の小さな値となりました。5-フルオロウラシルがFBPAに比べて親水的であることが影響しているものと考えられます。(Yoshii & Okamura, J. Phys. Chem. B, 115, 11074-11080 (2011))

sリン脂質ベシクルへのビスフェノールAフッ素置換体の輸送過程
図2.リン脂質ベシクルへのビスフェノールAフッ素置換体の輸送過程:
(左)膜への結合・解離と結合にともなう自由エネルギー変化、(右)動的な結合の効率。

吉井 範行准教授、
2010年度「日本膜学会膜学研究奨励賞」受賞(2010年3月15日)

 吉井 範行准教授が、2010年度「日本膜学会膜学研究奨励賞」を受賞することになりました。

 この賞は、膜学研究の分野で優れた業績を挙げた40歳未満の若手研究者に贈呈されます。今回受賞の対象となった研究は、"脂質膜やミセルへのモデル薬物のデリバリーに関するNMR解析とコンピュータシミュレーション"で、5月に東京で行われる日本膜学会第32年会において授賞式ならびに受賞講演が行われます。

岡村 恵美子教授の研究が文部科学省 科学研究費補助金 新学術領域研究
「揺らぎが機能を決める生命分子の科学」の公募研究に採択されました (2009年7月27日)

 岡村 恵美子教授の研究が、文部科学省 科学研究費補助金 新学術領域研究「揺らぎが機能を決める生命分子の科学」(http://kuchem.kyoto-u.ac.jp/hikari/yuragi/)の公募研究に採択されました。研究テーマは、
"生体膜の揺らぎによる薬物の輸送機構の動的多核NMR解析"です。

 新学術領域研究は、全国から選ばれた研究者がチームとなって取り組む研究です。今回の岡村教授の研究には、薬学部の通山由美教授と吉井範行准教授も連携研究者として参加することになっています。

岡村恵美子教授が
「第2回 資生堂 女性研究者サイエンスグラント」を受賞!授賞式に出席しました(2009年6月2日)

 岡村 恵美子 教授(写真)が、「第2回 資生堂 女性研究者サイエンスグラント」を受賞し、6月2日に行われたグラントの授賞式に出席しました。

 このグラントは、自然科学分野の研究に従事する優秀な女性研究者の研究活動を支援し、指導的女性研究者を育成する目的で創設されたものです。1年間にわたって(株)資生堂からグラント(研究助成金)を受けて研究を進めます。第2回グラントには、200名を超える研究者の応募があり、このなかから、岡村教授を含む10名が受賞することになりました。

 資生堂リサーチセンター新横浜において開催された授賞式では、受賞者一人一人に、岩田喜美枝・代表取締役副社長から受賞記念の盾(写真)が贈呈されました。授賞式の様子は、資生堂のウエブサイト「CSR News」http://www.shiseido.co.jp/csr/でも紹介されました。

 今回、受賞の対象となった岡村教授の研究テーマは、"薬物のin-cell NMR:シグナルの非侵襲検出と輸送解析"です。NMRは、最近病院などで広く使われている"MRI"と同じ原理で、細胞の中でくすりがどのように働くかを、くすりを構成する原子・分子の姿から捉えることができます。

 くすりがもっとよく効くためにはどうすればよいか、副作用を減らすにはどうすればよいか、新しいくすりを作るにはどうすればよいか、を考える基礎となる重要な研究として注目されています。

岡村教授
岡村教授
受賞記念の盾
受賞記念の盾
受賞者記念撮影
受賞者記念撮影
(前列左から2人目が岡村教授)
授賞式
授賞式

吉井准教授・岡村教授、
薬剤分子の「膜への結合」と「解離」の速度論を発表。
Chemical Physics Letters誌に論文掲載(2009年5月27日)

 吉井准教授と岡村教授は、パルス磁場勾配NMR法を用いて、薬剤分子の「膜への結合」と「解離」の様子を定量化することに成功しました。論文は、Chemical Physics Lettersに掲載されました。(2009年5月27日)薬剤分子は、図のように、細胞膜(membrane)に結合したり、膜から離れたりという2つの過程を絶えず繰り返しています。

胞膜への薬剤分子の結合と解離の模式図
図. 細胞膜への薬剤分子の結合と解離の模式図。boundは膜に結合した薬剤分子を、freeは解離した薬剤分子を示す。また、kFBとkBFは、それぞれ、膜への結合と解離の速度定数である。(Yoshii & Okamura, Chem. Phys. Lett, 474, 357-361 (2009)より)

 吉井准教授と岡村教授は、パルス磁場勾配NMR法を用いて、抗がん剤5-フルオロウラシル (5FU)がどのような速さで膜に結合したり膜から離れるかを、脂質二分子膜という細胞膜のモデルを使って調べました。

 詳しい解析の結果、5FUは、温度30℃では0.2 s-1という速さで膜に結合し、4.1 s-1という速さで膜から離れることがわかりました。この結果は、約0.2秒の間に、膜に結合した5FUの半分が膜から離れることを示しています。(Yoshii & Okamura, Chem. Phys. Lett, 474, 357-361 (2009))

薬学部・吉井範行准教授
「国際水・蒸気性質協会 ヘルムホルツ賞」受賞講演会、
ならびに薬学部主催・公開講演会「生命の起源と水」が開催されました

 平成20年12月18日(木)姫路獨協大学薬学部にて、本学薬学部・吉井範行准教授「国際 水・蒸気性質協会 ヘルムホルツ賞」受賞講演会、ならびに薬学部主催・公開講演会「生命の起源と水」が開催されました(プログラムはこちら)。当日は、姫路市内の高校生、高校の理科の先生、近隣の企業や大学の研究者、一般市民の方、SPring-8などから幅広く参加をいただきました。本学薬学部の学生や教員も多数参加し、総勢100名近くの方に講演を聴いていただきました。

 奥村勝彦 薬学部長のあいさつの後、吉井准教授の受賞講演が行われました。演題は「水の多様性-分子レベルで見た水の振る舞い-」でした。

 引き続き、京都大学から中原 勝教授をお迎えして、「生命の誕生と水」についてご講演いただきました。いずれも、身近にありながら不思議な性質をもつ「水」、生きるためになくてはならない「水」、生命の誕生に深くかかわっている「水」について、わかりやすく語っていただきました。

奥村薬学部長 挨拶
奥村薬学部長 挨拶
机上に吉井准教授
ヘルムホルツ賞受賞
記念の盾
会場風景
会場風景
吉井准教授 受賞講演
吉井准教授 受賞講演

 吉井先生の話は、水の性質や振る舞いをコンピュータで映し出したものであり、10億分の1メートルという超ミクロの「水」の世界を垣間見ることができました。

 中原先生のご講演は、「生命の誕生」について、「生物進化論」の紹介に始まり、水がどのような役割を演じたのか説明がありました。原始海底の奥深く、熱水のなかで、タンパク質のもとになるアミノ酸ができるお話、環境問題と関連した水の役割のお話、今年のノーベル化学賞を受賞された下村 脩先生の「緑色蛍光タンパク質(GFP)」のタイムリーな話題も飛び出すなど、興味の尽きない話をうかがうことができました。会場からも、予定時間を超過するほど活発な質疑応答が行われました。

講演される中原先生 講演される中原先生
講演される中原先生

岡村教授・吉井准教授、
「モデル細胞膜への薬剤の結合と運動状態のin situ NMR計測」に成功!
 The Journal of Chemical Physicsに論文発表(2008年12月2日)

 岡村教授と吉井准教授は、核磁気共鳴を利用したNMR法にパルス磁場勾配法という特殊な方法を組み合わせて、モデル細胞膜に結合した薬剤分子とfreeの分子を同時に観測することに成功しました。その結果、モデル細胞膜への薬剤の結合と運動状態が、in situ (そのままの状態)で捉えられるようになりました。論文は、The Journal of Chemical Physicsに掲載されました。(2008年12月2日)薬剤分子の細胞内への取り込み現象は、その分子の持つ薬理作用の発現と密接に関係しています。薬剤分子と細胞膜との相互作用に関する知見は、生理活性の発現や薬効の制御を行う上で重要な情報となります。しかし、細胞膜、あるいはそのモデルである脂質二分子膜と薬剤分子とが共存した系において、分子の自然のままの姿を明らかにした研究はほとんどありません。岡村教授らは、核磁気共鳴を利用した高分解能多核溶液NMR法にパルス磁場勾配法という特殊な方法を組み合わせて、脂質二分子膜への薬剤分子の結合量と運動状態をin situで定量する方法を開発しました。細胞膜の最も単純なモデルとして、図1に示すようなリン脂質の一枚膜ベシクル (LUV, 直径100 nm)を用いて、抗がん剤5-fluorouracil (5FU)の結合量を定量しました。次に、膜のなかの薬剤分子の動きをみることができるか検討しました。5FUは、図2のようにフッ素原子(F)をもっています。19F NMRと1H NMRを併用すると、フッ素と水素原子核のようすを同時に捉えることが可能になります。

細胞膜モデルとして用いられるリン脂質一枚膜ベシクルの模式図
図1.細胞膜モデルとして用いられるリン脂質一枚膜ベシクルの模式図
5FUの構造式
図2.5FUの構造式

 図3は分子が動く速さを温度に対して示したものです。膜に結合した5FUが動く速さは、結合しない状態よりも2ケタ近く小さくなり、膜を形作る脂質分子の動きと等しくなりました。膜のなかの5FUの運動が膜分子の動きに支配されるためと考えられます。高温になると膜分子との相互作用は弱くなり、薬剤分子が独立して動くようになります。5FUは約1割が膜に結合しており、結合の自由エネルギー( -4~-2 kJ/mol)は、脂質二分子膜が熱で自然に揺らぐ程度の小さなものであることもわかりました。いずれも、5FUと膜との結合が緩やかであることを示しています。

脂質二分子膜に結合した5FU(bound)とfreeの5FUならびに脂質分子(lipid) の動く速度の温度変化
図3. 脂質二分子膜に結合した5FU(bound)とfreeの5FUならびに脂質分子(lipid) の動く速度の温度変化。縦軸は拡散速度の対数を示しており、上に行くほど分子の動きが速い。
(Okamura & Yoshii, J. Chem. Phys., 129, 215102 (2008)より)

 今回の方法は薬剤分子のシグナルのみを選択的に解析するために、薬剤の結合や動きを、結合する相手にかかわらず、その場で定量評価する方法として、今後、創薬などに向けた幅広い応用が期待されます。

教科書「薬学生のための生物物理化学入門」(廣川書店)刊行!
岡村教授が分担で執筆しています。(2008年11月20日)

薬学生のための生物物理化学入門

 「薬学生のための生物物理化学入門」(加茂直樹・嶋林三郎編集)が、廣川書店から刊行されました(2008年11月20日)。岡村教授が「第5章 生体内への物質移動」を分担執筆しています。

 この本は、「生物物理化学」を初めて学ぶ薬学生のための教科書として、出版されました。「生物物理化学」は、生物のなかで起こる現象や生命の特性、生体に作用する医薬品の性質などを物理化学の立場で理解するもので、薬学の基礎として重要な分野です。この教科書は、薬剤師国家試験出題基準や薬学教育モデルコアカリキュラムにも基づいています。

岡村教授がアメリカ合衆国ピッツバーグを訪問し、
University of Pittsburghにて招待講演を行いました

 岡村教授がアメリカ合衆国ピッツバーグを訪問し、University of Pittsburgh,Molecular Biophysics and Structural Biology(ピッツバーグ大学 分子生物物理及び構造生物学部門)主催のSpecial Seminar において、招待講演を行いました(2008年6月19日)。内容は"Drug Binding and Mobility in Model Cell Membranes in Situ:A Pulsed-Field-Gradient NMR Approach"(モデル細胞への薬物の結合と運動状態のNMR解析)です。当日のプログラムは次の通りです。

 今回のアメリカ訪問は、ノースキャロライナ州立大学で開催されたアメリカ化学会コロイドおよび界面科学シンポジウムに出席するためであり、ピッツバーグ訪問は同大学のYan Xu教授のお招きによるものでした。当日は、ピッツバーグ大学から徒歩圏内にあるCarnegie Melon(カーネギーメロン)大学からも、膜(Lipid Membrane)のX線研究の大御所J. F. Nagle教授や奥様であり共同研究者でもあるS. Tristram-Nagle教授、M. Loesche教授など著名な先生方が講演を聴きに来てくださったこともあって、食事をともにしながら有意義な時間を過ごすことができました。Nagle教授ご夫妻には、ご自身の研究室も見せていただきました。また、Xu教授の奥様であり共同研究者でもあるPei Tang教授には、ピッツバーグ大学のなかを案内していただきました。

 写真は、ピッツバーグ大学の誇るNMR装置群の前で撮ったものです。装置が置かれている分子生物物理及び構造生物学部門の建物は3年前にリニューアルされ、とても近代的で奇麗でした。大型のNMR装置が6台も並ぶ様子は、さながら圧巻そのものでした。

PAGE TOP