薬学とは、薬を意味するギリシャ語の「pharmakon」に由来しています。
先史時代の人々も、多くの植物や動物から得られる物に後に薬へと発展する有用な物質(薬物)もあれば
有害な物質(毒物)もあることを知っていたようです。中国では、東洋医学の父「神農」が百草を嘗めて効能を確かめ、
諸人に医療と農耕の術を教えたと言い伝えられております。一方、(西洋の)ギリシャでは
ヒポクラテスが原始的な医学から迷信を切り離し、病気は神から与えられた罰ではなく、
環境因子や生活習慣から来るものであると主張した最初の医師であることから、「西洋医学の父」と呼ばれています。
ヒポクラテスの格言として”Art is long, life is short”が伝えられているが、
直訳すると「芸術は長し、人生は短し」となります。なぜ、“Science”の分野にいる医学者が、
“Art”について語ったのでしょう?
“Science” と“Art”は科学と芸術に訳され、科学とは理科と数学、
芸術とは美術や音楽が思い浮かべられ、共通点は無いように思われます。
“Science”とは、「神の創造物」である自然界(Nature)の原理・原則を見出すことと考えられています。
一方“Art”の原義を辿っていくと、その本来の意味は「神の創造物」の対極にある「人間の創造物」であり、
哲学・文学・歴史ばかりでなく建築も含み、それらを学び研究することも指しています。
さらに“Art”には、「勉学や練習、観察によって身につけた高度な能力」という意味合いも含まれています。
ヒポクラテスの格言の英訳“Art”の元になったのがラテン語“Artis”であり、
その語源はギリシャ語の“τεχνη(テクネー)”で、芸術よりむしろ技術を意味しています。
それらを踏まえると、「医術を習得するのには時間がかかるが、それに比べると人の寿命は短すぎる」、
「医術を極めるには生きている限りその習得に努めねばならない」といった意味合いがあるのではないでしょうか。
「真理は美しく、美しいものには真理が含まれる」
“Science” と“Art”の繋がりを知る以前から気になっていた言葉であり、
どこで出会ったのかは思い出せないが、いつの頃からかそう思うようになっていました。
E=mc2、今から100年前、アインシュタインが導き出した「宇宙の真理」に迫る方程式として知られています。
人類の世界観をも変えたこの式は、世界一美しい方程式と言われているのは有名です。
また、電子顕微鏡を用いた細胞超微細構造解析を高須博士に教えてもらっていた時(2012年4月コラムに掲載)、
「綺麗に撮影しないと電子顕微鏡像が説得力を持たない」という意味のアドバイスを受け、
妙に納得したのを覚えています。像が汚いと論文では採択されないし学会でも相手にされないので、
科学の分野では当然の事として受け止められていることです。
不思議なことに、科学ばかりでなく芸術をも楽しむ科学者は少なからずおられ、
ノーベル賞を授与された大村智先生が韮崎に美術館を私設されたのはご存知の通りです。
また、半導体研究で著名な西澤潤一先生は、
マルモッタン美術館のモネの水連の上下逆展示を指摘できるほど美術を嗜んでおられます。
さらに、最近では芸術系大学にアートサイエンス学科まで新設され、その垣根はますます低くなっております。
科学的現象がアートの対象となり、逆に美を見出す感性が自然界の原理・原則を見出すことにも繋がっている、
そのような気がしてなりません。
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