姫路獨協大学 薬学部
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課題 II:内在性抗癌物質としてのシクロペンテノン型プロスタグランジン

1. 腎臓癌について
2. 血清非存在下での結果
3. 血清存在下での結果

1. 腎臓癌について

 腎臓癌は、初期には無症状であることが多く、進行癌となって全身に転移した後、不明熱、貧血、全身倦怠などの自覚症状が初発症状となって発見される症例が多く観察される。腎臓癌と診断された時点では、既に腫瘍サイズは拡大し、およそ半数の患者に転移巣が存在すると報告されている。その治療には放射線療法も化学療法も無効の場合が多いことから、根治的腎全摘出を行う外科的切除がスタンダードとなっている。腎臓癌に対して化学療法が奏効しない理由として、抗がん剤が腎臓の癌病変部位にまで到達できない、或いは抗がん剤に対する腎臓癌細胞の感受性が低い等の可能性が考えられている。そこで、我々は腎臓癌部にまで到達することができ、かつ腎臓癌細胞に対し細胞毒性を有する物質である15d-PGJ2に着目した。15d-PGJ2 の抗悪性腫瘍作用は当初、その前駆体であるΔ12-PGJ2がL1210等の血球がんに対し抗腫瘍作用を示す内因性物質として発見されたことにより見出された。その後、15d-PGJ2大腸癌や肺癌等の固形癌細胞に対しアポトーシスを誘導することが明らかとなった(Int J Oncol. (2009) 34:1363)。また近年、15d-PGJ2 がACHNやCaki-1等の腎臓癌細胞に対し増殖抑制作用を持つことが報告された(Int J Mol Med. (2003) 12:861.)。一方、15d-PGJ2 が示す腫瘍細胞毒性は、当初、その受容体である PPARγ を介したものであると考えられてきた。


2. 血清非存在下での結果

 15d-PGJ2にはフルオロウラシル(5−FU)・シスプラチン(CDDP)との併用効果が報告されているが、Caki-2細胞においては見出されなかった図1)。種々の抗癌剤をスクリーニングした結果、カンプトテシン(CPT)に併用効果が見出された図2)。Caki-2細胞は細長い形態をしており、15d-PGJ2により丸く縮退した形態へと変化するが、カンプトテシン(CPT)では目立った変化は見出されなかった図2)。カンプトテシン(CPT)はトポイソメラーゼ Iを、15d-PGJ2トポイソメラーゼ IIを阻害することが報告されている。トポイソメラーゼ II阻害剤であるドキソルビシン(DOX)・エトポシド(VP-16)には15d-PGJ2との併用効果が見出されなかった図3)。トポイソメラーゼ I阻害剤カンプトテシン(CPT)とトポイソメラーゼ II阻害剤エトポシド(VP-16)にも併用効果が見出されなかった図3)。15d-PGJ2とカンプトテシン(CPT)の併用効果は、PPARγ選択的アンタゴニスト(GW9662)で抑制されなかったことから、PPARγ非依存的に併用効果を示していた。

 アポトーシスの指標であるクロマチン凝集において、カンプトテシン(CPT)により顕著な増加が認められたが、15d-PGJ2との併用効果は見出されなかった図4)。アポトーシスにおいてカスパーゼの活性化が知られている。15d-PGJ2カンプトテシン(CPT)はいずれもカスパーゼ3を活性化し、顕著な併用効果が認められた図4[Yamamoto et al., Biochem Biophys Res Commun (2011) 410, 563]。

(お詫び:上記論文[Yamamoto et al., Biochem Biophys Res Commun (2011) 410, 563]では血清非存在下での結果を報告していますが、血清非存在下を示す記載がございません。BBRCに訂正を依頼しておりますが、まだ受理されておりません。)


3. 血清存在下での結果

15d-PGJ2との併用効果に関し、種々の抗癌剤スクリーニングを行った。血清存在下では、血清非存在下と異なりトポイソメラーゼ II阻害剤であるドキソルビシン(DOX)[Yamamoto et al., Biochem. Biophys. Rep. (2017) 9, 61]・エトポシド(VP-16)[Yamamoto et al., Mol. Clin. Oncol. (2014) 2, 292]にも15d-PGJ2との併用効果が見出された図5)。15d-PGJ2とトポイソメラーゼ II阻害剤の併用効果は、PPARγ選択的アンタゴニスト(GW9662)で抑制されなかったことから、15d-PGJ2核内受容体は併用効果に関与していないと考えられた。

抗癌剤による形態学的変化を観察すると、Caki-2細胞は細長い形態をしていたものが、ドキソルビシン(DOX)により丸く縮退した形態へと変化した図6)。単独では目立った形態学的変化を引き起こさない濃度の15d-PGJ2ではあったが、ドキソルビシン(DOX)と併用すると著しく形態学的変性を起こし、死に至る癌細胞が増加した図7)。

アポトーシスにおいてカスパーゼの活性化が知られている。15d-PGJ2ドキソルビシン(DOX)・エトポシド(VP-16)はいずれもカスパーゼ3を活性化し、顕著な併用効果が認められた図8)。アポトーシスの指標であるクロマチン凝集において、エトポシド(VP-16)により有意な増加が認められ、15d-PGJ2により顕著に亢進した図9)。

我々は、癌細胞ばかりでなく神経細胞においても15d-PGJ2によるPPARγ非依存的アポトーシスを報告している図10)。15d-PGJ2によるアポトーシスにはホスファチジルイノシトール3キナーゼ(PI3K)の抑制が神経細胞[Koma et al., Neurophamacology (2016) 113, 416]ばかりでなく癌細胞[Yamamoto et al., Biochem. Biophys. Rep. (2017) 9, 61]においても示唆された。しかしながら、PI3K阻害剤は相加的にドキソルビシンの抗癌効果を亢進し図11、エトポシドやカンプトテシンに対しても同様であった図12)。15d-PGJ2によるトポイソメラーゼ阻害剤との相乗効果にPI3K抑制を介していないと考えられた [Yagami et al., Oncotarget (2017)]。