図10.15デオキシ-デルタ12,14-プロスタグランジンJ2について


 15d-△12,14-PGJ2は、細胞膜を透過し、細胞質中でperoxysome-proliferator activated receptor γ(PPAR γ)に結合することが知られています。その後、9-cis retinoic acidの結合したretinoid receptor (RXR) と異種二量体を細胞質において形成し、核内に移行して標的遺伝子のプロモーター領域中のPPAR responsive element (PPRE)に結合し、様々な標的遺伝子を発現します。神経細胞においては、PPAR の活性化によりアポトーシスは誘発されず、逆に細胞が死から保護されることが報告されています。
PGD2 の受容体として、7回膜貫通受容体のDP1とDP2が知られています。DP1 は促進性GTP結合タンパク質(Gs) と共役しアデニレートシクラーゼ(AC)を活性化し、cAMPを産生し、cAMP 依存性タンパク質リン酸化酵素(PKA)を活性化します。その結果、グルタミン酸などの神経細胞毒性に対し細胞保護作用を示します。一方、DP2 は抑制性GTP結合タンパク質(Gi) と共役しアデニレートシクラーゼ(AC)を不活性化し、cAMP産生抑制および細胞内カルシウム濃度上昇を起こします。DP2 はグルタミン酸などの神経細胞毒性に対し増悪作用を示すことが報告されています。15d-△12,14-PGJ2の膜標的分子としてDP2 が報告されていますが、神経細胞においてアポトーシスとの関与を示す証拠はまだ示されておりません。
さらに、15d-△12,14-PGJ2 はPGD2と同様に、官能基としてカルボキシル基を有しており、生体内pHでは負電荷を有していると考えられます。PGD2 は膜受容体(DP1とDP2)を介して細胞内に情報を伝えていますが、15d-△12,14-PGJ2 はキャリアタンパク質によって能動的に細胞内に運ばれて細胞内に情報を伝えていると考えられています。また、15d-△12,14-PGJ2はDP2に結合することも報告されていますが、我々の調べた限り、神経細胞には検出されませんでした。かくして、「15d-△12,14-PGJ2 は新規の膜標的分子を介して神経細胞死を誘発している」という仮説を立てるに至ったのです。

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