学部・大学院


東日本大震災薬剤師ボランティア活動報告
-宮城県女川町立病院における活動(5月30日~6月1日)-

姫路獨協大学 薬学部 准教授 天野 学

女川町立病院の状況について

海抜約16mの高台にあるもかわらず、津波により1階部分が約1.7mの高さまで浸水した。このため、1階部分は現在もトイレなどを除き使用できない状態にある。病院内では、お薬を扱う部署である薬剤部も津波により、ほぼ全てのお薬が水没し、機器が流されるなどの状態になり、機能を失った。

女川町立病院
女川町立病院



病院目前の建物には倒壊しているものがあった



病院目前の建物には自動車が載っている状態のものもあったが、いまだ撤去されていない


  • 女川町立病院の診療状況
    健康保険による診療を5月16日から開始している。
  • 女川町立病院近隣のライフライン
    6月1日現在、道路の状態などをのぞきほとんど問題ない状態であった。
  • 女川町立病院周辺での注意点
    外は瓦礫処理のため、未だに粉塵等が舞っている、病院周辺ではマスク着用をしたほうがよい。



薬剤師ボランティアとして救援した薬剤部について

女川町立病院の薬剤師は、被災当時3名が在籍していたが、震災後2名が退職し、薬剤部長 山内 茂樹先生のみとなる状態に一時期なった。その後、薬局を経営していたものの今回の震災によってその店舗を流された新田 充先生が、4月から当病院の薬剤師として臨時採用となり、6月現在薬剤部は常時薬剤師2名の体制となっている。


2階ホールに設置された臨時薬剤部(正面より)



2階ホールに設置された臨時薬剤部(薬品棚)


[ 仮設薬剤部での業務内容 ]

  • 外来患者様への調剤
    元々100%院外へ処方せんを出していたが、女川地区の4つの開局薬局が被災しため、処方せんを外部へ出しても患者様は調剤してもらう薬局がなくなった。このため、患者様へ渡すお薬は、すべて院内で調剤している。
    また、必要とされるお薬がない場合は、医師へ連絡し、同一成分の違うお薬に変えてもらう調剤をしている。このため、切り替えの時期にあるお薬は、同一成分・同一含量の違う2種類のお薬が同一薬品棚に混在していることもある。
    薬の袋は自動的に印刷される機械がないため、手書きにて対応している。また、患者様が薬の袋を持参し、再利用することも多い。

  • 入院患者様への調剤
    入院患者様への調剤は、必要となった時に入院処方せんを持参してもらい、そのつど調剤を実施している。

  • 薬剤師の状況と支援について
    業務の状況は、平日1日150枚程度の処方せんを調剤(5月初旬)しており、処方せんごと調剤するお薬の数はばらついているが、処方の日数は風邪に対する薬など一時的に服用する薬以外は28日分で処方されることが多い。保険薬局が再建されるまでの間、外来患者様に対するお薬の調剤を院内で行わなければならないため、現状の薬剤師4~5名でぎりぎりの状況である。6月は、神奈川県病院薬剤師会から2名の支援があるため薬剤師5名体制を維持できるが、7月以降はどうなるか未定であり、薬剤師3名体制になることが考えられる。また、保険診療が再開されたため、公的に支援をしにくいと考えられつつある状況がある。さらに、敷地内へ地域の薬剤師会が運営する薬局を作る案があるが、運営責任者の希望がないという状況があり、院外へ処方せんが発行できる状況が整うまでには時間がかかりそうである。


ボランティアのコーディネート

ボランティアを行うに当たって、コーディネートのよしあしが、効率的に行えるかどうかを左右すると思われる。今回の薬剤師ボランティアのコーディネートは、石巻薬剤師会 副会長の丹野 佳郎先生が指揮を執られ、大日本住友製薬の社員の方がスタッフとして実際に振り分けなどに当たられており、すばらしいコーディネートがなされていた。大日本住友製薬では200人ほどの薬剤師の資格を有する社員が、震災復興支援室を立ち上げ、3名ずつ5人ずつで1年間、震災の支援に当たるとのことであった。


左より佐久間 葉子さん*、河合 哲さん*、私、井上 修さん*、飯山 さやかさん* *:大日本住友製薬


左より私、丹野 佳郎先生


最後に

女川町立病院薬剤部長の山内 茂樹先生は、震災後初めて帰宅したのが3週間後であったとのことであり、非常につらい体験をされていた。このような状況にあるにもかかわらず、一薬剤師ボランティアである私にも気遣いをしていただき、毎日宿舎に戻る際には、パンやおにぎりを渡していただいた。その際には、「途中で助けになるかもしれませんから」と言葉を添えていただいた。
女川町立病院 薬剤部 新田 充先生は、今回の震災で自分の薬局をなくされた。それにもにもかかわらず、短期間のお手伝いである私に対しても、携帯電話に写された薬局の跡を見せてくださり、今回の津波の恐ろしさを教えてくださった。
石巻薬剤師会 副会長 丹野 佳郎先生は、今回の震災で勤務する薬局をなくされた。それにもかかわらず、震災時の状況について詳しく語っていただき、薬剤師ボランティアがどうあるべきかについてもお教えいただいた。
今回の薬剤師ボランティア参加において、山内 茂樹先生、新田 充先生、丹野 佳郎先生ほか女川町立病院スタッフの方、震災ボランティアに係わるすべての方のご対応に感謝いたします。今後も業務が滞りなく続けられ、完全な復興を遂げられることをお祈りいたします。


謝辞

今回の薬剤師ボランティア参加に関し、快く送り出していただいた姫路獨協大学 関係者の方々にこの場を借りて、お礼申し上げます。
また、私を現地へと派遣してくださった兵庫県薬剤師会 関係者の方々にこの場を借りて、お礼申し上げます。
さらに、本稿の作成に当たり、私より先に薬剤師ボランティアに参加された知命堂病院 武藤 浩司先生に海抜高、処方せん枚数などのデータを提供していただき、さらに全体の構成についてもアドバイスいただきました。この場を借りて、お礼申し上げます。



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