姫路獨協大学 薬学部
生理学研究室

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研究紹介

精神疾患発症に与える幼児期母子分離ストレスの影響に関する分子機構の解明

研究目的
虐待などの不適切な養育はストレス脆弱性を招き、統合失調症を始めとする精神疾患の病因になるとされている。精神疾患、とりわけ統合失調症の発症機序については、脳内神経伝達物質の機能異常と考えるドパミン仮説やグルタミン酸仮説が提唱されているが、未だ十分には明らかにされていない。一方、遺伝学的解析によりDisrupted In Schizophrenia 1(DISC1)、Proline dehydrogenase(PRODH)、Neuregulin-1等が関連遺伝子として報告されているが、遺伝子異常があっても必ずしも発症するわけではないため、近年は脳構造の形成に関わる胎生期、周産期、生後発達期において遺伝要因を含めた何らかの原因による脳発達障害により統合失調症に対する脆弱性が形成され(First-hit)、思春期以降における社会的(心理的)ストレスにより統合失調症を発症する(Second-hit)という神経発達障害仮説を発展させたTwo-hit仮説(図1)が提唱されている。この胎生期、周産期、生後発達期に影響を及ぼす環境要因の一つに育児放棄が挙げられる。これに当てはまるストレスとして母子分離がモデル動物に適用されている。母子分離を経験したラットにおいては、統合失調症関連行動が多数報告されている。本研究では、母子分離された仔ラットを統合失調症モデルとして用い、包括的行動解析、脳代謝の生化学的解析および網羅的タンパク質解析を行い、統合失調症関連候補分子の同定を目的とする。

研究計画

[1] 母子分離飼育ストレスモデルの作製:雌雄ラットを交配させ、出産日に同腹仔を10匹(雄性5匹、雌性5匹)に調整する。離乳前の特定の期間、母子分離を一定時間施す。離乳後、雌雄ラットそれぞれを2-3匹のグループで飼育し、成熟後に下記の実験を行う。
[2]  包括的行動解析:統合失調症モデルを評価するために考案されたテストバッテリーを用いて、母子分離を施した雌雄ラットを対象に情動機能、認知機能の評価を行う。

生理学研究室で行える行動解析

課題名/試験名 測定できる機能
健康診断/神経学的診断
外観観察 -
体重測定 -
体温測定 -
ホームケージにおける自発活動量の測定 一般的な健康状態、睡眠-覚醒リズム
神経学的反射の評価(瞳孔反射、瞬目反射、
耳収縮反射、姿勢反射、頬髭方向性反射)
反射機能
運動機能
ロータロッド試験 運動協調機能、運動学習機能
垂直棒試験 握力、運動協調機能、運動学習機能
ハンギングワイヤー試験 握力、運動協調機能、運動学習機能
フットプリントパターンの観察 姿勢、歩行運動機能
感覚機能

視覚機能試験 (visual placing test, etc.)

視覚機能 (見えているか見えていないか)

聴覚機能試験 (Preyer reflex test, etc.)

聴覚機能 (聴こえているか聴こえていないか)

嗅覚機能試験 (paint method, etc.)

嗅覚機能 (匂いを感じるか感じないか)

味覚機能試験 (two bottle choice test, etc.)

味覚機能 (味を感じるか感じないか)

触覚機能試験 (gap-crossing test, etc.)

触覚機能 (触れているか触れていないか)

痛覚機能試験 (Von Frey hairs method, etc.)

痛覚機能 (痛みを感じるか感じないか)

学習・記憶機能
モリス水迷路課題

空間記憶 (作業記憶・参照記憶)

放射状迷路課題

空間記憶 (作業記憶・参照記憶)

受動的回避学習課題

恐怖記憶 (作業記憶)

能動的回避学習課題

恐怖記憶 (作業記憶)

手がかり条件づけ試験 恐怖記憶(短期記憶・長期記憶)
文脈恐怖条件づけ試験 恐怖記憶(短期記憶・長期記憶)
情動機能

明暗箱試験

不安

オープンフィールド試験

不安、活動性

驚愕反応測定試験

驚き

感覚運動関門(≒注意機能)
プレパルス抑制試験 注意機能
潜在制止試験 注意機能
摂食・飲水
摂食量の測定 食欲
飲水量の測定 飲水欲
生殖機能
性行動の観察 性欲
養育行動の観察 母性
社会的行動
ソーシャルインタラクション試験 社会性
レジデント-イントルーダー試験 攻撃性

[3]  生化学的解析上記の行動学的テスト遂行中のラットを対象に、テスト遂行時の脳特定部位におけるモノアミンおよびアミノ酸の分泌動態をin vivo マイクロダイアリシス法により検討する。
[4]  タンパク質網羅的解析上記生化学的解析後のラットを対象に行う。母子分離飼育ストレスを与えたラットの脳を大脳皮質、海馬体、線状体、中脳、小脳、脳幹の各部位ごとに取り出し、細胞膜・細胞質・核画分に分離し、二次元電気泳動を行う。通常飼育したラットと比較して、増減しているスポットを切り出し、タンパク質を抽出する。その後、AXIMA-TOF2TM質量分析を行い目的分子を同定する。
[5] [4]で得られた分子の中で、統合失調症関連行動およびモノアミン、アミノ酸分泌動態変化と相関性の高い生理活性物質を統合失調症関連分子の候補とし、以降、その機構解析を行い、発症への関与を検討する。