姫路獨協大学 薬学部
生理学研究室

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矢上達郎 コラム

WCP2018を目指して、高校生達の挑戦 (2019.02)

 2018年7月1日(日)、この日が来るのを心待ちにしていました。日本での開催が、江橋節郎先生が会長として主催された第8回以来、37年振り2回目となる国際薬理学・臨床薬理学会議の初日でもありましたが、もう一つ理由がありました。兵庫県立神戸高等学校の生徒達と国立京都国際会館で待ち合わせていたのです。「なぜ高校生が、国際学会に?見学でもしに来たのだろうか」と、思われる方がおられても当然でしょう。しかしながら、この高校生達も発表するために来ていたのです。



姫路獨協大学薬学部生理学講座において神戸高校生が実験
 神戸高校は、スーパーサイエンスハイスクール(SSH)に指定されている兵庫県の理数系教育拠点高校です。SSHでは、高校生が自ら研究課題を設定し、実験を行い、成果を発表しています。薬理学以外にも数学・化学・工学等の多岐にわたる理系高校生の興味を受け止めるべく、卒業生を中心にサイエンスアドバイザーが形成されています。私もその一員として、6年程前から研究指導を依頼されております。抗癌剤に興味を持った高校生達は、化学療法が奏功していない腎臓癌を研究対象に選びました。授業やクラブ活動があるので、平日に神戸から姫路にまで来て実験をするのは物理的に難しく、夏冬および春休みに集中的に実験を行いました。一年間で纏まらなかったので、翌年、後輩達に引き継ぎ2年間かけて何とか成果を出しました。



第87回日本薬理学会年会(仙台)において神戸高校生が学会特別賞を受賞

 私の姫路獨協大学薬学部生理学講座との共同研究とは言え、高校生が薬理学会で発表するのはまだ一般的ではありません。演題登録を第87回日本薬理学会年会(仙台)に打診しました結果、高校生達の発表を許可して頂いたばかりでなく、「内在性抗癌物質との併用によりトポイソメラーゼ阻害剤の腎癌細胞に対する薬効が亢進される」という内容に対し学会特別賞を授与して頂きました。さらに懇親会にまで招待して頂き、2003年度ノーベル化学賞を受賞されたピーター・アグレ教授より副賞まで賜りました。



WCP2018(京都)において神戸高校生が英語でポスター発表

 その研究課題を継続し、新たにネイティブ並みの英語力を持つ高校生も加わり、今回のWCP2018での英語発表に繋がったのです。発表するまで世界の研究者に興味を持って頂けるのか不安で一杯でしたが、予想を超えて二桁の内外の研究者から質問を受け4人の高校生はその対応に追われ嬉しい悲鳴をあげておりました。国際学会と言えば、「最先端の科学と最新の知見を得る場」かも知れません。しかしながら、「刺激し、刺激され、新たな人と事に出会い、考える場」という側面も鑑みますと、今回の高校生発表は次世代の研究者育成に繋がると思い、敢えて紹介させて頂きました。最後に、WCP2018での発表を実現して頂いた学会関係者の方々に、高校生から頂いた手紙をもって深謝の意をお伝えしたいと思います。


 今日、国際薬理学会という栄えある舞台で発表できたことをとても光栄に思っています。この一年間、実に多くのことを学ばせて頂きました。数千の英語論文との格闘や統計学的分析など、私たちにとって初めてのことはもちろん、再現性や対照実験、記録の整理の重要性など、分かっていたつもりだったことが、実は甘かったことに気付かされました。私たちは、これからも薬剤や試験管に触れる機会が多い人生を歩んでいくことになりますが、研究内容に加えて、そういった基本的な姿勢を他の研究者に先駆けて学べたことは本当に幸せだと感じています。身の丈を超えた研究をしていることを痛感することも多々ありましたが、得られたものを一生役立てていきたいと思っています。本当に有難うございました。


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