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薬学部コラム

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第65回

利き手についての問題

生理学研究室 山本 泰弘 准教授


人類の大部分の利き手(とっさの時に動く手、いわゆる日常よく使うほうの手)は右であり、約90%が右利きだそうです。かくいう筆者も右利きであり、中二のころは希少な左利きに憧れて、左手で箸を持ったり、ボールを投げる練習をしたりして、後付け左利きになろうと目論んだものです。 左利きの有名人を挙げると、


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【アメリカ大統領】

ジェラルド・ルドルフ・"ジェリー"・フォード・ジュニア(第38代)
ロナルド・レーガン(第40代)
ジョージ・ハーバート・ウォーカー・ブッシュ(第41代)
ビル・クリントン(第42代)
バラク・オバマ(第44代)

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【芸術家】

ミケランジェロ・ブオナローティ(イタリア-画家)
ラファエロ・サンティ(イタリア-建築家)(イタリア-画家)
パブロ・ピカソ(スペイン-画家)
ヴォルフガング・アマデウス・モーツァルト(オーストリア-作曲家)
ヨハン・ゼバスティアン・バッハ(ドイツ-作曲家)
ルートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェン(ドイツ-作曲家)

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【科学者】

アルベルト・アインシュタイン(ドイツ-物理学者)
チャールズ・ダーウィン(イギリス-自然科学者)
アイザック・ニュートン(イギリス-物理学者)
マリ・キュリー(ポーランド-物理学者)
トーマス・エジソン(アメリカ-発明家)

など、枚挙に暇がありません。

アメリカ大統領はすごいですね。アメリカ人は左利きを好む人種なのでしょうか。 もちろん、ここに挙がっていない右利きの人にも、 優秀な人が数多く存在するのは当たり前なのですが、こうやってリストにしてみると、左利きは特別なのかなあと思ってしまいますね。

ところで、他の霊長類には利き手が偏っているということは無いそうです。 人類に右利きが多い理由としては諸説ありますが、いまだに決定的な理由は解明されていないようです。その例としては、

  • 人間の心臓が左側にあるため・・・ 人間が武器を持って争うとき、攻撃する武器を右手に、 防御する盾を左手に持つ右利きの戦士のほうが、心臓を守りやすいため生き残り、左利きの戦士よりも多く生存することができたという、自然選択説。 これはそんな戦いをしなくなった現代社会には当然のことながら当てはまらず、疑わしい。

  • 言語に関する脳領域が左脳に多く存在するため・・・ 人類は他の霊長類よりも格段に発達した言語を操りますが、その言語に関する脳領域は左脳に存在し、 左脳は右半身の運動にも関与していることから、言語が発達した人類は、 左脳を集中的に使うため、右手を使った運動も同時に発達したという説。 これは一見正しいようですが、左利きの人は言語を操る際には左脳に加えて右脳も使うことが知られており、 左脳の発達=右利きの成立とは直ちにならない。

  • などなど・・・

    ところが近年、人類の利き手を決めているかもしれないという遺伝子が報告されました。 オックスフォード大のウィリアム・ブランドラー氏率いる研究チームは、3,300人の被験者のゲノムに存在する遺伝子変異を調べた結果、 PCSK6という遺伝子が利き手の決定に強く関係していることを突き止めたそうです。 この遺伝子は、胚の段階で左右を決定する遺伝子で、体が発達する過程で、心臓は左とか、 肝臓は右といった臓器の左右の位置を決めるのに重要な役割を果たしているものです。 PCSK6をノックアウトしたマウスは、臓器の左右の位置がおかしくなり、心臓が右側に、 肝臓が左側に配置されるといったことが起こりました。 しかし、ブランドラー氏は、利き手がPCSK6だけで決まるわけではなく、 その他の遺伝子や環境などの要因が密接に絡み合い、利き手が決定されるのではないかと述べています。

    将来、利き手が決まる理由が解明されて、利き手を自由に決定できる技術が確立された、なんて時には、 子供が生まれる際に、「利き手はどっちにしますか?」なんてやりとりが発生しているかもしれません。 また、「利き手変更」ビジネスなるものが出来ているかもしれませんね。 いや、利き手が人によって違っていると色々と面倒なので、全員右あるいは左に揃えましょうということになる可能性のほうが高いですね。

    なんて、左利きに憧れた筆者はくだらない妄想をしてしまいます。

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    右手でボールを投げる筆者


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