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薬学部コラム

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第55回

異国での雑感:雑学のすすめ

生物物理化学研究室  岡村 恵美子 教授

 
この5月から8月の間に、アメリカのテキサス州を二度訪れる機会がありました。いずれも、国際会議に出席するためで、一つは「アメリカ油化学会の年次大会」、もう一つは「生体系の磁気共鳴に関する国際会議」で、ともにテキサスで開催されたのは、全くの偶然と言えます。

写真1
写真1: アラモの砦(サンアントニオ市)

写真2
写真2: ダラス市街の超高層ビルディング
(いずれも筆者撮影)

もっとも、同じテキサスと言っても、アメリカ油化学会はサンアントニオ、磁気共鳴の会議はダラスで行われたため、まわりの雰囲気は全く異なっていました。サンアントニオは「アラモの砦(写真1)」で有名な観光地ですが、テキサス州の南部に位置することから、メキシコに近く、ヒスパニック文化の香りと食べ物、メキシコ産の土産物が簡単に手に入ります。また、名前から想像されるように、過去にスペインの伝道師がキリスト教布教の拠点として使用した教会や、先ほどの「アラモの砦」のような石造りの建物が現在も残っており、アメリカの歴史を感じさせる場所です。一方、ダラスは1963年にJ.F. Kennedyが暗殺されたことで有名ですが、現在では、写真2のような近代的な建物が林立する都市であり、同じテキサス州に位置しながら、サンアントニオとは全く対照的な景観を垣間見ることができます。
  さて、ダラスへは日本から飛行機で直行することができますが、サンアントニオは日本からの直行便がないために、ダラス、ヒューストン、デンバーなどで乗り継ぐことになります。たとえば、ダラス−サンアントニオ間の飛行時間は、1時間強です。日本に置き換えると、東京から大阪までの飛行時間とほぼ同じか僅かに長いことになります。日本で東京と大阪と言えば、もちろん異なる都道府県であり、それぞれ関東・関西を代表する都市です。歴史やカルチャーも対照的です。ダラスとサンアントニオが同じテキサス州に属しているということは、日本で東京と大阪が同じ都道府県にあるようなもので、アメリカ国土のスケールの大きさを感じない訳にはいきません。ホテルのすぐ側を片側4車線(姫路でいえば国道2号線規模でしょうか)の道路が縦横に走っており、側道でさえ片側2~3車線ありますので、驚きです。
 「郷に入らば郷に従え」と言うことわざがあります。ご存知の通り、アメリカでは車は左ハンドルで右側走行ですが、日本で左ハンドルの車だからといって右側を走れば、違反です。その国の法律に従うのは当然なのですが、一方で、海外に出てみることは、外から日本を見つめ直す絶好の機会と言えます。いったん外に出ることによって、今まで気づかなかったことが見えてくることがあるのです。上で書いた距離の話や道路の話は、ほんの一例です。これは、何も海外に出なくても、国内でも、たとえば、今自分が置かれている環境とは違う環境にあえて飛び込んでみると、これまでと違ういろいろな世界を知るとともに、今まで見えなかったことが見えてきます。このような体験は、これまでの自分を、改めて客観的に見ることにもつながります。
 自分のスタイルを確立する、自分の考えにこだわることは、勿論大切なことです。そのために、違う世界をたくさん学んで、いろいろな知識を身につけてください。いわゆる「雑学」です。「雑」と言う言葉は、仕事が雑だ、雑草、混雑など、あまりよい意味では使われないようです。「雑学」もそうかもしれませんが、知っている方が知らないよりずっと楽しい。万一それまでの自分の考え方が行き詰まるようなことがあったとしても、他の何かを知っていれば、別のやり方でやり直すことができます。「押してだめなら引いてみな」です。生物も、進化の過程で、様々な過酷な環境に対応できる「多様性」・「柔軟性」を獲得したからこそ、ここまで生き延びることができたのだと思います。遺伝子のプログラムが一様だったとしたら、もしそれが行き詰まったときに、その生物は途絶えてしまいます。
 若いうちに自分の世界を飛び出して、外の世界をいろいろ巡ってみてください。勿論、書物からでも構いません。遠回りのようにも見えますが、ひとまわりもふたまわりも逞しくなって、再び自分の世界に戻っていくことを期待しています。

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