学部・大学院

薬学部コラム

<<< コラム一覧     << BACK     NEXT >>  
第24回

人生を決めた講義

生理学研究室 高瀬 堅吉 講師


 幼い頃、私は不思議に思ったことを両親、とりわけ父親に質問する癖があって、「宇宙の果てってどうなっているの?」、「どうして物って落ちるの?」、「幽霊っているの?」、「心って何なの?」と、いろいろと尋ねていました。私の父親は大学生の頃に物理学を専攻していて、宇宙論や力学に関する質問は(当時はそのような分野の存在を理解したうえで質問をしていたわけではないのですが)子どもでもわかるように噛み砕いて熱心に答えていてくれた気がします。また、幽霊の存在や心の不思議などについても、他分野ながらに自身の見解を伝えていてくれた気もします。今考えてみると、父親とのそのやりとりは、私の好奇心を育ててくれた、たいへん魅力的な講義でした。

パラグライダー風景

 時は流れ私は大学生に。私は、一年浪人をして、立命館大学文学部哲学科心理学専攻という長い名称所属の大学生になりました。中学、高校と多感な思春期を過ごした私の当時の関心事は人の心でした。両親は、心理学など占いのようなもので将来の役に立たないと最初は進学に反対しましたが、最後は折れて、実家の横須賀から大学のある京都へと快く送り出してくれました。 誤解がないように注釈をつけますが、心理学は列記とした科学です。

  入学後、そんな両親の優しさを裏切り、私は浪人生活でたまった憂さを晴らすために、勉強はそっちのけで友達と遊び呆けていました。将来の目標もなく、漫然と大学生活を過ごす当時の私に、将来の明確なヴィジョンは見えていませんでした。そのまま一年が過ぎて大学二年生。私は卒業に必要な単位を稼ぐという最近の大学生らしい理由で、生理学という講義を受講しました。当時、立命館大学には生理学を教えられる先生がいなかったため、講義は京都大学の先生が出張して行っていました。生理学という学問がどのような学問かを知らず、ただ単位をとるために私はその講義を受講したのです。ところが、そこで行われた講義がその後の私の人生を決めました。

  私は立命館大学には、国語、社会、英語の三教科受験で入学しました。そのため、いわゆる理系科目にはとんと疎かったのです。そのような学生が受講していることを知ってか、先生は生物学の知識がなくてもわかるように、脳の生理学を懇切丁寧に、そしてたいへん興味深く教えてくれました。そして、心理学専攻の学生に、心と脳が如何に密接な関係にあるのかを熱心に伝えてくれたのです。幼い頃に聴いた父親の講義のように、あの時の生理学の講義は中学、高校の勉強で眠ってしまった私の好奇心を再び掻き立ててくれました。

  大学を卒業後、私は脳の生理学を学ぶべく、実家の近くにある横浜市立大学大学院医学研究科に進みました。入学試験に向けて、高校の生物学から勉強をやり直し、さらに大学レベルの生理学の知識を詰め込んで試験に望みました。結果は合格。そして、大学院修士課程修了後に横浜市立大学医学部生理学教室の助手となり、4年間務めた後に、ここ姫路獨協大学薬学部生理学教室の講師となりました。今は生理学と心理学、両方の学問の視点から心との脳の病について研究を行うことが私の仕事になっています。

  そしてもうひとつ。今、私は薬学部学生を対象に生理学の講義を担当させてもらっています。あの、人生を決めた講義から11年。私は生理学を受講する立場から教授する立場に変わり、現在教壇に立っています。今の私の講義が、学生の人生を左右するほどの影響力を持てているのか、それはわかりません。ただ、あの時私が感じた学問の面白さ、止まない好奇心、あとからあとから湧いてくる疑問、そんな止め処もない気持ちを受講している学生にも感じて欲しいと願い、私は毎回の講義に臨んでいます。    

ページの先頭へ