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薬学部コラム

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第23回

周波数に関わる取りとめもない話

生物物理化学研究室 岡村 恵美子 教授


  皆さんは「周波数」と聞くと、何を連想されますか。何か難しげな話かと思われるかもしれませんが、ちょっと待って。実は、身の回りの多くのことに関係しています。身近な例を見てみましょう。
 たとえば、皆さんは音楽を聴くことも多いと思います。この「音」は空気の振動であり、1秒あたりの振動の回数が周波数になります。テレビやラジオで毎正時(12時、1時、2時・・・)に時報が放送されるのをご存知ですか。プップップッ、プ―というあれです。実は、この最初の3つの「ラ」の音の周波数が、442 Hzなのです。つまり、1秒間に442回振動する音波ということになります。最後の長い音は、1オクターブ上の「ラ」の音です。1オクターブ上ということは、振動数がちょうど2倍ですので、884 Hzということになります。  さて、この442 Hzの「ラ」の音ですが、実は非常に重要な音なのです。この音は、ドレミファソラシドでいうと「ラ」になります。もっとも、日本で音階がこのように呼ばれるようになったのは比較的最近のことで、それまでは、ドレミファソラシドは、ハニホヘトイロハでした。この呼び方は今も残っていて、かの有名なベートーベンの交響曲第5番「運命」は「ハ短調」、第6番「田園」は「ヘ長調」など・・・。この呼び方では、「ラ」の音は、「イ」と呼ばれます。一昔前のイロハの「イ」ということで、あいうえおの「あ」に匹敵する非常に重要な位置にあたります。欧米でも、「ラ」の音は、ABCのAで表され、重要さは日本と同じだったと考えられます。ベートーベンの交響曲第7番は「イ長調」、英語ではA-majorです。

パラグライダー風景

 音楽の話題になっていますが、オーケストラが演奏前にいろいろな楽器の音をそろえる目的で「チューニング」と呼ばれる音合わせをすることをご存知ですか。この時に全員が合わせる音が、オーボエという楽器が出す442 Hzの「ラ」の音なのです。もっとも、この周波数はオーケストラによって多少異なることもあり、たとえば、筆者は学生時代にオーケストラでオーボエを吹いておりましたが(写真)、当時、伝統あるウィーンフィルは442 Hz、近代的なニューヨークフィルは443 Hz、したがって、我が京大オケは○○○ Hz??と“まことしやかに”囁かれておりました。
 もう1つ、赤ちゃんが生まれたときに最初に出す産声の周波数をご存知ですか。産声は、赤ちゃんがお母さんのお腹のなかから出てきて肺呼吸に移行するとても重要な儀式です。実は、筆者が長男を出産したとき、当時勤務していた大学の研究室の学生が、病院が近いこともあって、お見舞いに来てくれました。そのときに、学生の1人がつぶやいた言葉:「赤ちゃんの産声って、442 Hzなんですね・・・」
 残念ながら、私はその後出産することがなかったために、そのことを確かめることもなく、現在に至っています。そこで、絶対音感に自信をおもちの、これから出産される若いお母様、あるいは、奥様の出産に立ち会われるご主人へお願い。我こそと思う方は、是非この件について確かめてみてください。真偽のほどはいかがでしょう。出産の楽しみがもう1つ増えるかも。もし本当だとしたら、442 Hzの「ラ」の音は、生命の根源に関わる神秘の音なのかもしれません。
 他にも、思いもよらないところに関わりが見つかるかもしれませんね。周波数に関する取りとめもない話でした。

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