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薬学部コラム

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第9回

啓蟄に寄せて

生化学研究室 通山 由美 教授

暖かな日射しに、春の到来が嬉しい季節となりました。もうしばらくすれば、姫路獨協大学も山桜の花吹雪に包まれることでしょう。一方で、この季節になると、秋の深まりとともに姿をみせなくなった、小さな生き物達が、今春もまた元気な姿を現してくれるのかと気がかりになります。
私の自宅は京都府長岡京市、京都西山の麓で、古くは長岡京という短命の都の南部にあたります。今では、美しい竹林が広がるタケノコの名産地、歴史と自然に恵まれた地域です。その長岡京の自宅の小さな前庭でささやかな園芸を楽しんでいます。四季折々の可憐な花々とともに、植物をめざして訪ねてくれる昆虫たちとの出会いが何よりの魅力です。

とりわけ、楽しみにしているのが、巧みにバラの葉を丸く切り取るハキリバチと、スミレをめざして飛来する優雅なツマグロヒョウモンです。

ハキリバチ

ハキリバチは、顎を上手に使って、バラやハギなどのやわらかい葉を丸くくりぬき、木の穴や、竹筒に運んで巣の中の仕切りにします。ブーンと飛んできて、バラの葉を、コンパスで描いたように円状に切り取り、抱きかかえて飛んでゆきます。自宅から竹林までは百メートル余、小さなハチにとっては長旅に思えますが、何回も往復しているのかもしれません。そのあっぱれな早業を目撃して以来、バラの葉の丸いカーブを新たに見つけるたび、今日も元気にハキリバチがやってきたのかと、思わず微笑んでしまいます。

ツマグロヒョウモンは、タテハチョウ科(ヒョウモンチョウ属)の美しいチョウです。後ばねのへりが黒くなっていることが名前の由来らしく、メスでは、さらに前ばねの端の黒色が鮮明です。幼虫がスミレ類を食草とするため、メスはスミレの葉の裏に産卵します。野生のスミレだけでなく、園芸種のパンジーやビオラなども食べるため、住宅街でもそのすみかを広げているそうです。最初の出会いは幼虫でした。黒い体に一本の赤い筋が背中に通る立派な幼虫がビオラの葉を旺盛に食べている姿に思わず立ち止まり、凝視してしまいました。

ツマグロヒョウモン

警戒色を感じさせる強烈なコントラストは、これは何者の幼少の姿かと、興味を抱かざるをえない雰囲気です。やがて銀色の棘が並ぶ金属調の蛹に変態し、優雅な成虫となっていきました。以来、ツマグロヒョウモンの訪問を楽しみに、毎年スミレ類のプランターは欠かせません。
急激な環境の変化により、絶滅危惧種の保護や生物多様性の保全が叫ばれる中、ガーデニングブームを上手く利用して、逞しく生きるハキリバチとツマグロヒョウモンにエールを送る気持ちとともに、飽きやすい人類の勝手に振り回されないで欲しいと願う気持ちでもあります。
啓蟄も過ぎ、今年もまた、彼らに出会える日を、心待ちにしているこの頃です。

3月15日 長岡京の自宅にて

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