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薬学部コラム

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第27回

薬剤師のルーツを探る

医療薬剤学研究室 高良 恒史 准教授


 「薬剤師って、一体どんなことをしているの?」 病院や薬局で働いている薬剤師は、処方せん(クスリの指示書)に基づいてクスリを調合したり、クスリを安全に使用してもらうために、患者さんにクスリの説明をしたりしています。
 では、薬剤師という職業は、みなさんの目にはどのように映っているのでしょうか?
 少し古いデータになりますが、2006年にアメリカのギャラップ社が、職種による誠実度と倫理性に関する調査を行っています。その結果、誠実度や倫理性の高い職業として、看護師が1位に選ばれ、獣医師や医師がそれぞれ3、4位にランクされています。そして、薬剤師は、堂々の2位にランクインしています。同じような調査が日本でも実施され、消防士、裁判官に次いで、薬剤師は3位にランクインしています(2005年、日本リテイル研究所調べ)。このように、薬剤師という職業は、信頼度の高い職業として、みなさんの目には映っているようです。

 そこで今回、これから薬剤師、薬学部への進学を目指すみなさんに大いなる期待と願いを込めて、薬剤師という職業のルーツを一緒に探っていきたいと思います。

 諸説色々ありますが、世界で初めて薬剤師が登場したのは、今から約800年近く前の1240年と言われています。当時のシチリア島(地中海最大の島)にて、神聖ローマ帝国のフリードリヒII世が制定した5ヵ条(薬剤師大憲章)によって、薬剤師という職業が初めて法制度化されたと言われています。
 では、なぜ、フリードリヒII世は、薬剤師大憲章なるものを制定したのでしょうか? それは、主治医が、自分を裏切って毒殺することを恐れて、クスリのチェックを別の人に行わせるためでした。つまり、処方せん(クスリの指示書)は医師に書かせ、クスリは医師の知らない薬剤師に調合させることにより、毒薬が紛れ込んでいないかをチェックしたのでした。(ちなみに、銀食器が古代に良く利用されていたのは、単なる贅沢品ではなく、当時の毒物として利用されていた水銀が、食事等に混入していないかを発見するための道具でもありました)
 これが、薬剤師の始まりであり、それ以来、薬剤師は医師の処方をチェックする“クスリの番人”として機能するようになりました。つまり、医師には、治療に使用するクスリを選択し、使用する権限(処方権)、そして、薬剤師には、医師によるクスリの選択をチェックし、調合する権限(鑑査権と調剤権)が与えられました。これが、医師と薬剤師の権限を切り離す「医薬分業」の起源にもなりました。

 それでは、日本で初めて薬剤師が登場したのはいつ頃でしょうか?
 漢方医学の長い歴史を歩んできた日本では、医師がクスリの調合をしている時代もあり、当時の薬屋さんは、薬草の問屋か、売薬の製造元のことであったため、実は、1870年代(明治維新の直後)になって薬剤師という職業が登場したと言われています。つまり、世界で初めて薬剤師が登場してから、約700年近くも遅れて登場したことになります。しかしながら、明治維新後は、日本においても西洋医学(ドイツ医学)が取り入れられ、明治政府は、薬学者・薬剤師の養成、「医薬分業」の採用を決定したと言われています。
 そして現在、高度化・多様化が進む日本の医療現場において、薬剤師はチーム医療の一員として、また、セルフメディケーション、地域医療をサポートする医療人として、その活躍が期待されています。
 このように、薬剤師のルーツと現況を探ってみると、薬剤師に課せられた責務が何であるのかお分かり頂けたのではないでしょうか。

 では最後に、高度化・多様化が進む日本の医療環境において、薬剤師には一体何が求められているのでしょうか?
 筆者の個人的見解ではありますが、高度化の進む医療、分子標的化の進むクスリ、遺伝子診断・治療、このような医療を駆使していくためには、薬剤師は、科学者としての素養を身につけることが必要になるでしょう。そして、このような医療環境の中で、医療人として活躍するためには、豊かな人間性も重要になるでしょう。
 これから薬剤師、薬学部への進学を目指すみなさん、ぜひ、科学の素養(Science)と人間性(Humanity)を兼ね備えた薬剤師を目標として、日々前進して頂きたい。    

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