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薬学部コラム

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第14回

新型インフルエンザ

ゲノム解析学研究室 柴田 克志 教授

9月に入り再び新型インフルエンザが流行しはじめ、巷では学級閉鎖も目立つようになって来ました。厚生労働省の報告によると9月28日~10月4日の1週間の新たなインフルエンザ患者は33万人で、大半が新型インフルエンザ感染症のようです。特に北海道での流行が際立っており、例年通りですと約1ヵ月後、すなわち11月にピークを迎える事になりそうです。その頃には、季節性のインフルエンザも流行し始めるでしょうから用心しないといけません。そこで、今回は新型インフルエンザについて書く事にしました。2009年4月、豚インフルエンザ感染者がメキシコと米国で初めて発生しました。その後、メキシコや米国をはじめ各国に急速に感染が拡大し、6月11日には汎世界的流行を意味するglobal pandemic、すなわちフェーズ6がWHOより宣言されました。

新型インフルエンザ
10月2日にアップデートされたWHOの最新情報では、9月27日の時点で遺伝子検査で判明した新型インフルエンザ感染症例は全世界で34万人、死亡者は4100人超という事です。しかしながら多くの国々で症状が軽い場合は、わざわざ新型インフルエンザの診断はなされていないのが現状で、実際の数はもっとずっと多く、まだまだ多くの国において感染が拡大しつつあるようです。因みに新型インフルエンザウィルスの今回の流行で、米国では3~9万人の死亡者が発生する可能性もあると、presidential advisory panel(大統領諮問委員会)では予想しています。そもそも何故、新型インフルエンザが心配なのかというと、毎年少しずつ遺伝子が変異する季節性のインフルエンザと違い、この新型インフルエンザA(H1N1)に対してはほとんどの人が免疫を全く持たないか持っていても僅かであるからで、そのために季節性インフルエンザに比べて感染性が強くなってしまうからです。新型インフルエンザは10~45才までの比較的若年に感染性が強く、症状は軽症から時には死にいたる重症例まで様々です。特に妊婦、入院患者や呼吸器疾患などの基礎疾患を有する人、免疫機能の低下している人では重症化する可能性が高い事がわかっています。ところで余談ですが、日本では新型インフルエンザと呼ばれる事が多いですが、WHO、CDC (Centers for disease control and prevention、米国疾病予防管理センター)、CNNやABC Newsなどの米国メディアの記事を見てみますと、pandemic H1N1 2009 influenza(直訳すると、パンデミック-世界規模で流行している-H1N1 2009インフルエンザ)とか2009 H1N1 Flu (2009 H1N1インフルエンザ)、あるいはSwine Flu(豚インフルエンザ)などが多く、新型インフルエンザという記載はあまり見かけませんでした。
 抗インフルエンザウィルス薬であるオセルタミビル(商品名:タミフル)に薬剤耐性の新型インフルエンザの孤発例が報告されています。現在の所、オセルタミビルに抵抗性を示す28種類の新型インフルエンザウィルスが報告されていますが、これらのウィルスは全て同一箇所のたった1つのアミノ酸変異(H275Y)を有している事が明らかとなっています。幸いこれらオセルタミビル抵抗性のウィルスは、もう一つの抗ウィルス薬であるザナビル(商品名:リレンザ)には感受性があります。これらの薬剤耐性インフルエンザウィルスがもし集団感染するようになるとちょっと厄介な事になります。
 ついでに鳥インフルエンザ(Avian influenza、H5N1)についての最新情報も見てみました。9月24日のWHOの情報では、エジプトで二人の感染者が新たに発生したそうです。二人とも抗ウィルス薬にて症状は安定しているようです。今の所、鳥インフルエンザウィルスは濃厚接触者間でのヒトからヒトへの孤発感染例の報告はありますが、ヒトからヒトへの集団感染例の報告はありません。鳥インフルエンザについては最近あまり報道されていませんが、いつの日か高病原性のインフルエンザが流行するかも知れないと思うと怖いですね。
 最後に、今ある抗インフルエンザウィルス薬は、インフルエンザウィルスの持つノイラミニダーゼ(Neuraminidase, NA)という酵素を阻害し、感染細胞からウィルスが飛び出して来るのを抑える事でウィルスの増殖を抑制する作用を持っています。しかし、薬そのものにはウィルスを直接殺してしまう作用はありませんので、自分自身の免疫力にも頼らなければいけません。飛沫感染であるインフルエンザの感染の仕組みをよく理解し、個人レベルでのインフルエンザ感染予防に努める事は大事ですが、万が一インフルエンザにかかってしまったと思われる時は、早期に医療機関を受診し、また日頃から規則正しい生活をおくり健康維持に努める事も肝要です。

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