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薬学部コラム

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第53回

再生医療に期待すること(その2)

薬理学研究室  角山 圭一 准教授


 前回のコラム「再生医療に期待すること(第22回)」を記載してから4年の時間が経過した。この間、iPS 細胞(人工多能性幹細胞、induced Pluripotent Stem cells)を開発した京都大学の山中伸弥教授は「"for the discovery that mature cells can be reprogrammed to become pluripotent"(成熟細胞が初期化され多能性をもつことの発見)」により、2012年のノーベル生理学・医学賞を受賞され、再生医療は大きく進歩している。私は「神経新生(再生)による神経変性疾患(筋委縮性側索硬化症やタウオパチー)の治療」を研究テーマの一つとしているため、非常に興味がある分野である。そのため、前回に引き続き、「再生医療に期待すること(その2)」を紹介したいと思います。

 再生医療は、病気や外傷によって胎児期にしか形成されない身体の細胞、組織、器官の機能が失われた時に、その機能回復を目的とする医療分野です。その主役となるのが「幹細胞」で、体性幹細胞(骨髄細胞や皮膚細胞など)、ES細胞、iPS 細胞などがあります。昔は夢物語でしたが、皮膚移植治療のように実際治療が実現したものもあり、再生医療が疾患を根本治療する有力な医療技術となることは間違いありません。再生医療の主役となる幹細胞とは、

1)

ES 細胞(胚性幹細胞)
ES 細胞は、受精後5~7日程度経過した胚盤胞の一部から取り出された細胞を特殊な条件下で培養して得られ、神経細胞や血球細胞など様々な種類の細胞に分化する多能性、無限に増殖するという高い増殖能力を持っている。しかし、ES 細胞は、受精卵を壊して内部細胞塊を取り出して作られるため、倫理的な問題を含んでいる。 また、他人の受精卵より作られるため、自己の免疫機構により、拒絶反応が起こる。そのため、仮にES細胞で健康を取り戻したとしても、免疫抑制剤を服用し続けなくてはいけなく、免疫抑制による感染症に注意が必要となる。
(参考資料)
http://www.lifescience.mext.go.jp/files/pdf/11_2.pdf#search='ES%E7%B4%B0%E8%83%9E'

2)

iPS 細胞(人工多能性幹細胞)
iPS 細胞は、2006 年に京都大学の山中伸弥教授らのグループによって成体のマウス皮膚(体細胞)から世界で初めて作られたもので、様々な組織や臓器に分化できる万能性と、分裂増殖を経てもそれを維持できる自己複製能を持つ。iPS細胞は自己の体細胞(移植を受ける患者自身の皮膚細胞)から作製することから、ES細胞の倫理的問題や拒絶反応を無視できるため、ES 細胞を用いた再生医療から iPS 細胞を用いた再生医療へシフトしている。実際に動物実験で、筋萎縮性側索硬化症、パーキンソン病などの神経変性疾患でiPS 細胞を再生医療(治療)に使う試みの成功例が次々と報告されている。これらの疾患は、これまでにも有効な治療方法が確立されておらず、その多くが難病に指定されている。そのため、iPS 細胞による再生医療への期待が高まっている。現在、iPS細胞を使ったヒトへの臨床研究が、理化学研究所 発生・再生科学総合研究センター(高橋政代プロジェクトリーダー)で、加齢黄斑変性という目の難病から始まることになった。これに続き、パーキンソン病や脊髄損傷などさまざまな病気について臨床応用を目指す研究が進む。また、iPS細胞などを使った再生医療の実用化を目指した法案「再生医療推進法」が可決・成立し、再生医療が現実の医療技術として発展するとともに、国家プロジェクトとして進んでいる。

3)

STAP細胞(刺激惹起性多能性獲得細胞)
今年1月、STAP細胞は、新たな万能細胞の作成手法として、理化学研究所 発生・再生科学総合研究センター(小保方晴子研究ユニットリーダーら)により、短期間かつ細胞を弱酸性溶液に浸し刺激を与えるという簡便な方法で作成できる研究成果が報告された。この報告で、STAP細胞は、iPS細胞と同様の性質を持ちながら、より短期間かつ簡便に作製できる(時間と費用が軽減)点が、iPS細胞よりも優位であり、難病に苦しむ患者さんに朗報となった。しかし、論文発表後、多数の疑問点が示され、現時点で、論文撤回という話になっている。実際にSTAP細胞があるのか?ないのか?、はわからないが、難病患者さんの期待を裏切るようなことにならないで欲しいと願っている。

 

 今回、再生医療の現状を簡単に紹介させていただいた。STAP細胞の問題で、「理化学研究所 発生・再生科学研究センターの解体」がニュースに流れている。今後、どのようになっていくかはわからないが、同じ理化学研究所 発生・再生科学総合研究センターでiPS細胞を使ったヒトへの初の臨床研究が実施されるため、影響しないようにしていただきたいと思っている。iPS 細胞の開発は、これまで難治性疾患(治療薬や治療法がない難病)の根本治療にも繋がり、その可能性が期待されることから、今後の研究の進捗が楽しみである。

興味・関心のある方は、「幹細胞ハンドブック(科学技術振興機構・再生医療研究推進部発行)」 http://www.jst.go.jp/ips-trend/pdf/stemcellhandbook_revised08_140228.pdf

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