学部・大学院

薬学部コラム

<<< コラム一覧     << BACK     NEXT >>  
第21回

タイトル 風

生化学研究室 加地 弘明 講師


 4月もあと数日を残すばかりとなりましたが、肌寒い日が多くてなかなか暖かい日が続いてくれませんね。この春は本当に寒い日が続きました。4月半ばに雪が降ったり、例年になく雨が多かったり・・・。今年は震えながらお花見をしたのが印象に残っています。早くぽかぽかとした春の陽気に包まれたいものです。

 さて、今回のコラムでは「風」を題材に話を進めたいと思います。 今年の春の寒さは例外的な出来事ですが、春になると必ず毎年やってくるものとして強風があります。有名なところで“春1番”“花散らしの風”“春の嵐”、その他にも“春疾風(はるはやて)”“強東風(つよごち)”など春に吹く強風にまつわる言葉は数多く存在しています。3月ごろの朝の情報番組で、10 m/s以上の強風日が最も多い季節は春だと知りました。また、風による転倒事故などが多いのも春だそうです。台風が来る季節の夏や秋ではなく、春に多いという結果は意外に思えたのですが、「春」という言葉には穏やかなイメージがあるので、風に対する心構えとか備えが他の季節に比べて少なくなってしまうのが原因なのかもしれません。また、これは春に限ったことではありませんが、風が吹くと頭が痛くなったり、風に乗ってやってくる花粉や黄砂の影響でアレルギー症状がでたりと、時に風は人間の健康にも悪影響を及ぼしてしまいます。
 風の日はいやだなぁ、と思う人も多いのではないでしょうか?

 ※ ちなみに春に強風が吹くのは、南北の温度差が大きくなって日本付近で暖気と寒気がぶつかり低気圧が発達しやすいため、だそうです。

 一方で、やわらかい(ほどよい)風は人の心を落ち着ける作用をもっています。桜の花びらが風に舞う様を見て風流を感じたり、草原を通る一陣の風に身を任せて自然を感じてみたり、北風から暖かな南風に変わって春だなぁと思ってみたり。夏の風物詩である風鈴の音色も風があってこそのものです。また、春を表す季語に“風光る”というものがありますが、暖かな春風が太陽の陽光をまとって輝いて見える様を表した言葉で、本当に風が光っているわけではないのですが何となく想像できてしまいます。
 このように、風の一番の魅力は自然との一体感を感じとれることだと思います。

パラグライダー風景




パラグライダー風景

 僕が大学新入生の時に、パラグライダーのサークルになにげに勧誘されて、一度体験してみることにしました。それまではウインドサーフィンやハンググライダーなどウインドスポーツの存在くらいは知っていても、危険だし自分には関係のないものだと思っていたのですが、いざ体験してみるとこれがなかなかおもしろいスポーツで、すぐにそのサークルに所属することにしました。
 パラグライダーは基本的に一人乗りなので、山上からのフライトを行うためにはまず地上でグライダーの立ち上げと離陸着陸の練習をしなければなりません。この練習は高原の緩斜面で行うのですが、パラグライダーは飛び立つ際にグライダーの中に空気をはらませるため、自分に対する向かい風(アゲンストの風)でグライダーの立ち上げを行います。つまり、いい風が吹かないと練習やフライトができないということになります。僕はこの立ち上げ練習を5月・6月の初夏に行いましたが、その時に風が単なる「空気の流れ」から「存在を感じ取れるもの」へと変化していきました。というのも、練習で汗をかいた後の風がとても気持ちよく、草っぱらに座りこんでいろんな方向に吹く風を感じながら向かい風待ちをしていると、本当に自然と一体になった気がするからです。
 そして、ある程度練習をつんだ6月末にいざ初フライト。「山上から飛び立った時には不安感で一杯、でもフライト中は自分が風と一体になった気分を味わえた」とフライト記録には記しています。
 結局、大学の講義や別のサークルの都合上大学2年生くらいまでしか続けず、総フライト本数は20本もありませんでしたが、サークルでの経験は僕にとってとても貴重なものであり、風が好きになったきっかけでもありました。

 これから初夏に向け、気候のいい日が続くと思います(多分ですが)。パラグライダーを経験してみよう・・・とは言いませんが、ストレスが溜まっていたり、落ち込んだ気分になっている時にちょっと高原へドライブに出かけ、のんびりと爽やかな風や草木の香り、鳥のさえずりや虫の声など、目に見えないものを楽しんでみるのはいかがでしょうか?
 ちなみに、見えないとは書きましたが、自然の中、緩斜面に立っていると下から吹く風が草や木を徐々に揺らしながら自分の方に向ってくる様は風が見えている気分にさせてくれますよ。
 自分にとってやさしい風を少しでも自然の中で感じることができれば、風が嫌いだった人、風の存在をあまり意識していない人も、きっと風がそして自然がもっと好きになるのではと思います。

ページの先頭へ