2017年2月21日
リーガロイヤルホテル(大阪)公開講座にて「血液検査最先端;がんの診断、治療そして予防に役立つ情報」というタイトルで、西郷教授が講演しました。
講演内容は 1)がんの疫学、2)血液を用いたがんの早期診断の可能性、そして3)がん予防と血液データ、についてでした。
日本人では生涯2人に1人ががんに罹患し、男性では4人にひとり、女性では6人に1人ががんで死亡することが示されています(2014厚労省)。男性でも最も罹患数の多いのは胃がん、女性では乳がんであり、これらは検診をうける価値が高いと言えるでしょう。一方考えておく必要があることの1つに、侵襲のある検診を何歳まで許容できるか、という問題もあります。検査の危険性と、ベネフィットを天秤にかける必要があるからです。欧米では、検診の年齢上限が定められているものがあり、日本でも今後考えていくベキ問題でしょう。
1.アミノインデックス
味の素社が開発した、血中の遊離アミノ酸の分析を用いたがんリスク検診が一部の医療機関で実用化されています。保健では未収載であること、あくまでリスク検診であり存在を示すものではないこと、を理解する必要はありますが、簡便で興味深い方法だと思われます。今後人間ドック等でも応用されるのではないかと期待されます。
2.遺伝子検査
血液中の癌細胞由来の遺伝子を解析する方法は、一部日常臨床に広く応用されています。今回は慢性骨髄性白血病の診断、治療効果の把握におけるBCR-ABL遺伝子メッセンジャーRNAの定量について紹介しました。西郷教授が現在治療中の10数名の患者さんでも、経過をしっかり確認でき、一部の患者さんでは治療を中止できたこと等が紹介されました。
3.エクソソーム、マイクロRNA
がん細胞を含む様々な細胞から放出されるエクソソームは、その表面に様々なタンパク質を保有していること、さらに様々な働きをするマイクロRNA(メッセンジャーRNAではない!)を含んでいることが注目されています。マイクロRNAは、ほかの遺伝子の働きを調整する機能をもっていますが、がんの種類によって特異的なパターンを示すことが沢山報告されるようになり、がんの診断法として注目されています。1. の方法と同様に、早期のがんでも検出できる可能性のあることが魅力的です。
1.ウイルス、細菌によるがん
B型、C型肝炎ウイルスが肝硬変、肝臓癌の誘因であることは確実で、治療法も進歩しつつあります。今回は胃がんの要因である、ヘリコバクターピロリー菌の感染診断における血液検査を紹介しました。いわゆるABC検診と呼ばれるものですが、できるならば除菌することががん予防につながると考えられます。
2.カロリー制限
永年論戦が繰り広げられていましたが、2017年1月のネイチャーコミュニケーションズで結論が出たと言えるでしょう。成人以後のカロリー制限は、がんや糖尿病を減らす、と言えそうです。血液検査はなくても体重で推測できる効果ですね。そのメカニズムは、エピジェネティックスという、遺伝情報の発現メカニズムに関連している可能性について解説されました。
3.鉄制限
体内の鉄過剰は、酸化ストレスを増大させます。従って、やはり成人、あるいは中年以降は鉄分のとり過ぎに注意が必要です。実際、肉食が多い、つまりヘム鉄が多く含まれる食事は、大腸がんの明らかな誘因であることも示されています。鉄を減らす最も有効な手段は献血でしょう。血液検査ではフェリチンという項目が、有用な指標といえそうです。
今回は、鉄がなぜ酸化ストレスを起こし、発がんにつながるのか、等についても解説されました。