2019年3月20日~23日に幕張メッセで開催された「日本薬学会 第139回年会」において、薬学部生物分析化学研究室の田口由加里さん(学会当時学部5年生、現6年生)がポスター発表した論文「人工分子ARFが有するユビキチン結合酵素の特異的認識能の改変」が、ポスター発表の部で『優秀発表賞』を受賞しました。
日本薬学会の年会は、薬学分野で最も権威と伝統のある学会で、田口さんが受賞した「優秀発表賞」は、ポスター発表を行った全国の学生・大学院生による696演題の中から84演題しか選ばれなかった(受賞率12.1%)、たいへん貴重な栄誉ある賞です。
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生物分析化学研究室では、かねてより准教授の宮本和英先生を中心に、革新的ながん診断法の開発に向けて、生体内でユビキチン化反応に関わるE2酵素(ユビキチン結合酵素)の活性を簡便に捉えることができる新しい検出システムの研究を進めてきました。
「ユビキチン化反応」は細胞内で不要になったタンパク質の分解を行いますが、この反応は、E1酵素(ユビキチン活性化酵素)、E2酵素(ユビキチン結合酵素)、E3酵素(ユビキチンリガーゼ)による連続的な反応です。最近、このユビキチン化反応の異常が、白血病、乳がん、胃がんなどの発症に関与することが明らかとなり、血液や組織中のE2酵素の活性を測定すれば新たながん診断の指標になると考えられています。しかし、ユビキチン化反応は連続的な反応なので、E2だけの酵素活性を測定することはこれまで非常に困難でした。
生物分析化学研究室では、世界に先駆けて、E3酵素の活性部位(E2酵素と結合するのに必要な5残基のペプチド)を他の小型タンパク質の配列中に移植した人工分子ARFを設計し、このARFを用いればE2だけの酵素活性を簡便に測定できることを示してきました。
しかし、実は、E3酵素には数多くの種類があり、そのE3の種類によって対応するE2酵素との組合せも異なります。移植に用いるE3酵素の種類によって、E3酵素の活性部位の5残基ペプチドの配列は異なり、その配列にトリプトファンというアミノ酸が含まれているかどうかによって、E3酵素は分類されます。今回の田口さんの発表では、ARFに移植された5残基のペプチドの配列中に系統的にトリプトファンを導入させ、多種類あるE2酵素のうち、どのE2酵素によるユビキチン化を測定できるようになるかを観測しました。その結果、ARFに移植するペプチドの適当な位置にトリプトファンを導入することによって、ある特定のE2酵素の活性だけを検出できることがわかりました。
今後、この研究が進展すれば、疾患に関わる特定のE2酵素の活性だけを検出できるようになり、疾患特異的な診断システムの開発への応用が期待されます。